お部屋を自分なりにアレンジして暮らす「賃貸カスタマイズ」。とはいえ、もちろん世の中すべての賃貸住宅がカスタマイズできるわけではありません。いったいどうすればそんな物件に出合えるの? そこで、ここでは対応物件の探し方や交渉のコツ、契約時に注意すべきポイントなど、一連の流れを紹介します。
賃貸物件の場合、退去の際には部屋を借りたときの状態に戻すのが原則。経年変化や住んでいて自然に生じる損耗 (家具の設置によるカーペットのへこみや日やけ等による畳の変色など)の補修費については大家さんが負担することが多いが、それ以外は入居者の負担で元に戻すことになる。照明のカバーを付け替えるくらいなら退去時に戻すだけで済むが、壁紙を張り替えた場合などは簡単には戻せない。許可なく勝手にカスタマイズすると、戻すために予想外の負担が発生したり、大家さんとのトラブルに発展したりする可能性も。ここで紹介する掟を踏まえ、うまくカスタマイズを実現させよう!
今住んでいるのは自分でも、あくまで大家さんから「借りている」もの。自分が部屋を出た後のことも考え、多くの人にとって愛されるカスタマイズを行うよう心がけたい。当然、コンクリートなど構造部材に負担をかけて傷めてしまうような無茶な改造はNG。奇抜すぎる色の壁なども避けたいところ。
人気のカスタマイズは「壁にフック、コート、ハンガーを取り付ける」「照明を好みのものに変える」など(図1)。一方、「部屋の魅力アップ」を前提に、大家さんが原状回復なしのカスタマイズをOKしてくれそうなのは、「トイレを温水洗浄便座にする」「トイレに収納棚を取り付ける」といった機能アップにつながるもの。多くの人がやりたがっているカスタマイズ、機能アップにつながるカスタマイズなら、次住む人にも喜ばれるはず!
前述のとおり、賃貸物件の原則は原状回復。自己負担で元に戻すのが嫌なら、大家さんに内緒でカスタマイズを行うのは避けたい。最悪の場合、損害賠償なんてことにもなりかねないので、まずはきちんと相談してみよう。これから入居するのであれば、契約前に希望を伝えるのもあり。
下図のように不動産会社(管理会社)を通じて大家さんに交渉するのがセオリーだが、大家さんが近くに住んでいる場合などは直接話してみるのもアリ。
カスタマイズの費用は当然入居者の自己負担かと思いきや、大家さんへのアンケートでは意外な結果が。何と多くの大家さんがカスタマイズ費用の全額または一部負担を検討しているのだ(図2)。予算 がなくて二の足を踏んでいる人は、思い切って大家さんに相談してみては?
口約束で大家さんに許可をもらって、いざ部屋を出るときには「言った言わない」のトラブルが―なんて状況は避けたいもの。カスタマイズする箇所・内容をはっきり書き、大家さんにも書面で承諾の返事をもらうなど、必ず「記録」を残しておこう。
メールやFAXでも法的効力はあるが、できればしっかりと同意書(契約書)を作るのがベスト。特に戻すのにお金がかかる大掛かりなカスタマイズの場合には必ず不動産会社(管理会社)に相談し、書類を準備してもらおう。
カスタマイズにはどんなパターンがあるの?カスタマイズの対応パターンは、現在のところ大きく分けて2種類。契約段階で変更ポイントを決めておき、改修が終わってから入居する「入居前カスタマイズ」と、入居してから少しずつ手を加えていく「入居後カスタマイズ」があります。 また、そこからさらに、あらかじめオーナー(大家さん)側 が数種類の壁紙や照明を用意し、その中から自分好みのものを選ぶ「セレクトプラン」と、より自由度の高いカスタマイズを許容してくれる「フリープ ラン」に分類されます。 なお、「セレクトプラン」の場合、「壁1面のみカスタマイズ可能」など、ある程度ルールを制限しているケースが多いです。
ここのところ増えているのが、「入居者が自由にお部屋のパーツを選べる」サービス。契約時などに、自分好みの壁紙や照明を選ぶだけでOK。引き渡し時にプロが施工し、個性的なお部屋に仕上げてくれるという最も手軽なカスタマイズです。なお、壁紙代や工事費はオーナー側が負担するケースが多く、入居者負担ゼロでお部屋にアクセントをつけられる点も魅力です。
なかには、壁紙や床材、細かいパーツに至るまで、入居者が思いのままにカスタマイズできる物件もあります。場合によっては間取り変更や、和室を洋室に変更といった大がかりな改修に対応してくれるケースも。まさに「オーダーメード」感覚で、理想の空間をつくりあげることが可能です。費用は入居者が負担するケースが多いようですが、物件によってはオーナー側が負担してくれるケースもありますので、事前に確認しましょう。
TYPE1の「入居前カスタマイズ×部材・設備セレクトプラン」の場合、これまでは原則として入居前に選んだ壁紙を変更することができませんでした。しかし、最近では入居者の費用負担を条件に、入居中でも壁紙を変更できるサービスが登場。壁紙に飽きたり、季節やインテリアに合わせてイメージを刷新したいときなどにぜひ利用したいサービスです。
お部屋の一部、あるいは大部分について原状回復義務を免除し、費用は入居者負担で自由な改造を許容している物件もあります。例えば壁1面についてはペンキを塗ろうが、くぎを打って棚を取り付けようが、何をしてもOKというケースなどもあり、退去時に原状回復費用を求められることもありません。実際に住み始めてから、自分のペースで少しずつカスタマイズしていきたい人にオススメです。
カスタマイズのタイプをおさえたら、次はさっそく物件を探してみましょう。そこで、ここでは不動産・住宅サイトSUUMOを使ってカスタマイズ物件に出合うためのポイントをご紹介します!
SUUMO「カスタマイズ可の賃貸住宅情報」では、カスタマイズに対応可能な賃貸住宅を数多く紹介しています。各社のカスタマイズ内容と事例も写真付きで紹介しています。また、ページ下部の「物件を探す」からは、実際にカスタマイズに対応している物件を探すことも可能です。(カスタマイズ可の賃貸住宅情報)
一方、当サイトで紹介している会社以外でも、カスタマイズ対応物件を扱っているケースがあります。そこでここからは、SUUMO賃貸サイトから「カスタマイズに対応してもらえそうな物件」を探すコツを伝授。ポイントはSUUMOの検索機能を活用し、いくつかの条件を絞って物件を絞り込んでいくことです。(スーモ賃貸サイト)
ただし、これらの物件はあくまで「カスタマイズの相談にのってもらえる可能性がある」ということ。実際に対応可能かどうかは、それぞれの不動産会社などに確認しましょう。
【検索条件1】『築年数が古い』ー築20年以上が目安ー
ある程度築年数が経過した物件の場合、カスタマイズを許容してくれる可能性が高まります。なお、SUUMOが物件オーナーに行ったアンケートでは、「どれくらいの築年数を超えるとリフォーム・カスタマイズを容認するといった、おおよその基準があれば教えてください」という質問に対し、「20年以上」と答えたオーナーは47.2%、「30年以上」は11.3%と合わせて約60%という結果に。狙い目は20年超えの物件といえそうです。
【検索条件2】『人気が高くない間取り』ー1DK・2K・3Kなど昔多かった間取りー
1DKや2K、3Kなどは、ひと昔前の二人暮らしやファミリー層に需要の高かった間取り。現在のライフスタイルが変化するなか、やや敬遠される傾向があります。こうした物件も、ある程度の期間入居することを条件に、カスタマイズを許容してくれる可能性があります。
ある程度、物件の目星がついたら、次は不動産会社に問い合わせ。連絡先は、SUUMOに掲載されている各社の「問い合わせ」欄を参照。メールまたは電話にて気軽に連絡してみましょう。
SUUMOの物件紹介ページには「問い合わせ機能(無料)」がついています。このボタンをクリックすると、「お問い合わせ」フォームが表示され、ここからメールで問い合わせることができます。まずは「お問い合わせ内容」欄の「その他の問い合わせ」にチェックを入れましょう。すると詳細記入枠が表示されますので、ここにカスタマイズにまつわる質問内容を入力して送信。その後、おおよそ24時間以内に、不動産会社から連絡がくるはずです (ただし、水・木曜、もしくは火・水曜が定休日の不動産会社もあるのでご注意を)。
また、こちらのフォームから物件見学の申し込みをすることも可能。フォーム内にある「実際に見学したい」という項目にチェックして、送信するだけです。 ぜひ気軽に活用してみてください。
時間があれば、不動産会社に来店して詳しい内容を確認してみましょう。できれば実際に物件を見学させてもらい、カスタマイズのイメージを描いてみるといいでしょう。ここではその基本的な流れと注意点を解説します。
飛び込みで来店しても対応してくれますが、できれば物件の問い合わせの際などに来店予約をしておきましょう。待たされることなくスムーズに対応してくれますし、ほかの候補物件をピックアップしておいてくれる可能性もあります。
セレクトプランを実施している物件の場合、対象となるお部屋のカスタマイズプランについて、詳しい説明を受けることができます。また、選べる「壁紙」「照明器具」などのカタログやサンプルも提示してもらえるので、自分好みの部屋づくりのイメージを膨らませることが可能です。
不動産会社に来店すると、希望条件などを記入する「管理用シート」を手渡されます。まずはそこに、「カスタマイズ希望」である旨を明記。特に「カスタマイズ可」を謳っていない物件の場合も、そうしたシートを残しておくことで、不動産会社から物件オーナーに相談してもらえる可能性があります。その際、よりプランが具体的なほど、不動産会社の担当者にとっても交渉がしやすくなりますので、できれば管理用シートにはカスタマイズの具体的なイメージも書き添えておきましょう。
SUUMOに掲載されている写真や間取図だけではわからない室内の印象や各部のサイズ感、使い勝手などを実際の部屋の見学時にチェックしておくと、カスタマイズのプランニングがスムーズに進みます。
実際の部屋のチェックは、基本的には通常の賃貸部屋の場合と何ら変わりありませんが、セレクトプランの対象箇所を十分に確認し、どの部材や設備を選ぶのかを検討しましょう。
既に思い描いているプランをお持ちの方も、まだ具体的なプランを描けていない方も、「できること」と「できないこと」を実際の部屋で不動産会社の担当者に確認しておきましょう。
「その1」で、カスタマイズにはさまざまなタイプがあると紹介しましたが、なかでもお部屋をガラっとイメージチェンジできるのが、「入居前カスタマイズのフリープラン」や「入居後カスタマイズ」。とはいえ、これらは大がかりな改修となるだけに、対象の範囲や内容などの「カスタマイズに関する取り決め」は事前に定めておきたいところです。でないと、了承を得ていない部分まで勝手にやって、後々トラブルを招くなんてことも……。そこで、ここでは「希望する改修の内容をオーナー側に認めてもらうためのコツ」など、交渉のポイントを紹介します。
交渉に当たり、希望するカスタマイズの範囲と内容は具体的に決めておきたいところ。壁にどんなクロスを張りたいのか、それともペンキを塗りたいのか、設備はどこまで変更したいのか、あるいは間取りごと変えたいのか……。箇条書きでもいいので、まずは紙に書き出してみるといいでしょう。
ちなみに、物件オーナーへのアンケートでは、「トイレを温水洗浄便座にする」「シャワーヘッドを交換する」「トイレに収納棚を取り付ける」といった、比較的手軽なカスタマイズであれば原状回復義務なしで実施OKと応える人が多数。カスタマイズによって部屋の魅力が増し、物件としての価値が上がるのであれば、オーナーにとっても悪い話ではありません。まずは遠慮せず、余すことなく希望を伝えてみましょう。
また、交渉の際は、写真やイラストといったビジュアルを添えると、より効果的。たとえカスタマイズを許容しているオーナーであっても、部屋の仕上がりには一抹の不安を抱えているもの。具体的なイメージを示し、そんな不安をできるかぎり取り除いてあげることが、交渉を制する最大のポイントとなります。
これまで数多くの「カスタマイズルーム」を入居者とともにつくり上げてきた、「ロイヤルアネックス(東京都豊島区)」オーナーの青木純さんによれば、「やっぱりデザインのセンスって人それぞれですから、正直いってオーナー側は一番そこが怖いんです。ですから、なにかしら具体的なイメージを見せてもらえると安心しますね。僕自身も、そうしたイメージのすり合わせがしっかりできる人なら一緒にやってみたいって思います。ロイヤルアネックスでも、住まい手の思いを形にする『オーダーメード賃貸』を展開していますが、なかには打ち合わせの際に模型をつくってきた人もいましたよ」とのこと。
さすがに模型まではムリでも、雑誌の切り抜きやWEBサイトの出力紙などを持参するだけで、先方の反応はだいぶ変わってくるはずです。
『人を動かしたかったら、人を動かすようなイメージを伝えろ!』(メゾン青樹・青木氏)
こうした「イメージのズレ」とともに、オーナーサイドが恐れるのは「下手な改修」で部屋を台無しにされること。「カスタマイズを相談されたとき、オーナーさんや管理会社として最も気になるのは、その仕上がりです。失敗しても比較的容易に張り替えできる壁紙などであればまだいいのですが、例えば『床を自分で張り替えていいですか?』と言われたら、貸す側としてはやはり少し不安な気持ちになってしまいますね」と、オーナーの気持ちを代弁するのは、東京、愛媛、福岡などで入居前セレクトサービス「rashiku」を展開するハウスメイトマネジメントの伊部さん。
どうしても譲れない条件があり、大がかりな改修を望むなら、多少の費用負担も覚悟の上でプロの手を借りるのもアリかもしれません。その上で「物件価値の向上」をアピールすると、オーナーもぐっと前向きになるはず。「プロが施工をするという条件付きであれば、カスタマイズを容認してくれるケースはかなり広がると思います。そればかりか、物件の価値が向上するので、むしろ歓迎してくれる人も多いのではないでしょうか」(伊部さん)
カスタマイズによって部屋の魅力が上がれば、本人が退去した後でも借り手はすぐに見つかるはず。プレゼン次第では、費用をオーナーサイドがもってくれるなんてことも期待できるかもしれません。
では、実際にオーナーの気持ちを動かすことができるのは、果たしてどんな人なんでしょうか? そこで、青木さんや伊部さんのお話をふまえ、オーナーにとって「カスタマイズを許してもいいかな……」と思える人の特徴を挙げてみました。
このほかにも、「あとは、しっかりとコミュニケーションがとれる人。カスタマイズを許可したとしても、その後何の連絡もいただけないとオーナーは不安になります。ですから、カスタマイズをしたら『こんな風になりましたよ』ってきちんと報告してくれそうな人なら、こちらも安心してOKを出せます」と青木さん。シンプルですが、確かに重要なポイントかもしれません。独りよがりのカスタマイズではなくオーナーと一緒にすてきな部屋を作っていく。そんな考えをもった人にオーナーも弱いのかもしれません。
各ステップを経て、ようやくたどり着いた契約。でも、ここで安心するのはまだ早い! これまで交渉してきたカスタマイズの許容範囲や費用負担の取り決めなどについて改めて確認し、念押ししておきましょう。その際、口約束だと後々「言った言わない」のトラブルに発展する可能性大。できれば、契約書上に、簡単でいいのでカスタマイズに関する一言を盛りこんでもらいたいところ。それが難しければ覚書などを別紙で作成し、お互いの合意を形として残しましょう。